紺色ののれんがかかった小さなお店の引き戸を開けると、「こんにちは?!」という明るい声と幸せな香りに温かく迎えられました。ここ「カンロ伊織」は、浦安駅から北へ歩いて10分ほどのところにある、自家製酵母のパン屋さん。白とナチュラルな木材を組み合わせたかわいらしい店内には、ふっくらと焼きあがったパンが並んでいます。一見“普通”に見えるパンたちですが、実はその一つひとつに、店主の吉野伊織さんの優しさと努力が詰まっています。
20歳頃からパン屋で働き始めた吉野さんは、当初はそこで使っている材料が“ 普通”だと思っていたそう。「手が荒れたりすることがあって疑問に感じたんですが、仕事のしすぎかな?って思ってました」と言います。しかしその後、添加物を使わないお店に勤めたことをきっかけに、考えは一変。「そこでは体の不調がなくて。添加物がずいぶん影響してたんだなって気が付きました」。自分がなにも知らずにパンを作り、それを人にすすめていたことに衝撃を受けたという吉野さん。「その頃には子供も1歳くらいになっていて、安心して食べさせられるものを作りたいと思いました」。そんな想いを込めてこのお店をオープンしたのは、2014年のことでした。
「最初は高いと言われたり、どこのパンも一緒だと思われたり…うまくこだわりが伝え切れてなかったですね」と苦笑いで振り返る吉野さん。添加物を使っていないことや、国産小麦を使っていることなどをコツコツと伝え続けた結果、今では「やっとハード系のパンが買えるようになった」「卵や乳製品を使っていないパンを買えて嬉しい」といった声が届くように。店の向かいには大きな病院があるので、「なるべく体に負担をかけないパンを作って、心と体が元気になるようにという気持ちで営業しています」と話す吉野さんの笑顔には、相手を安心させるぬくもりがあります。
浦安出身で、地元愛のある吉野さんは「自分はこの町のためになにができるだろうって、いつも思うんですよね」と、どこまでも謙虚。帰り際にも「ありがとうございます!」と相変わらずの明るい声が響き、いつまでも手を振って見送ってくれた吉野さん夫妻とスタッフさん。その姿を思い出しながらいただいたパンは、まだほんのり温かくて、少しだけ甘くて、ホッとする味がしました。吉野さんの人柄が表れたようなパンとお店の空気感は、間違いなくこの町に元気を分けてくれています。