Photo/Saori Kojima
Text/Ayako Futatsuya
少し前の浦安のことを知る人たちは、口を揃えて「この町は数十年でずいぶん変わった」と言います。漁師たちはいなくなり、カチャカチャと貝をむく音も聞こえなくなりました。その一方で、変わらず守り続けられているものもあります。「当時はうちみたいな建物もたくさんあったけど、今はかえって目立つようになったのはいいことかもしれませんね」と笑うのは、市内猫実にあるつくだ煮店「西敏商店」の大塚宏一さんと計介さん兄弟です。
西敏商店は、おふたりのお祖父様が昭和9年に創業。子どもの頃は作業場で遊んだり、仕事のお手伝いをしたりして過ごしたといいます。「人情がある浦安の町が好きでした。人の行き交いがあったし、どこからも会話が聞こえてきてにぎやかでしたよ」と懐かしみます「つくだ煮は昔から食べてきたし、匂いもかいできた。だからもう、DNAがつくだ煮なんでしょうね」と宏一さんはおどけます。
示し合わせもせず兄弟そろって大学を出てそのまま家業に就いたのは、やはりつくだ煮で育った血のせいなのでしょうか。でも、悩みや不安がなかったわけではありません。「父は心配していましたね。材料の確保など苦労もありましたから」と振り返りますが、小売りを始めるなど新しいことにもチャレンジし、兄弟でお店を支えてきました。今はこの道を選んでよかったと確信しているそうです。
西敏のつくだ煮は作り置きをしないのがこだわり。つくだ煮といえば保存食で醤油っ辛いイメージですが、時代の流れに合わせて製法や味付けも少しずつ変えてきました。「素材の味を活かすように追求しました。無添加で、子どもでも食べられる味付けです」と自信をのぞかせる計介さん。変わらないのは、すべて手作業で行っていること。お祖父様手作りの釜を使って直火でじっくり煮込んで作っています。かき混ぜ棒は数十年の時を経てすり減り、すっかり小さくなりました。
「がんばってきてよかった」と思う瞬間は、地道な努力が実を結んだとき。出会いが出会いを呼んで、昨年は伊勢神宮に奉納も行いました。「他界した祖父にも見せたかったですね。きっと喜んでくれているはず」。浦安は市外からの移住者も多いので、これからも西敏の味を広く知ってほしいと願うおふたり。つくだ煮仕込みのたくましい意志で、この町に暮らす人に“故郷の味”を伝え続けます。
住所 | 〒279-0004 千葉県浦安市猫実5-6-26 MAP |
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電話 | 047-351-2338 |
営業時間 | 9:00~17:00 |
定休日 | 土・日曜・祝日 |
その他 | 浦安昆布煮 500円(100g)~、
青柳貝佃煮 580円(100g)~ |